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【読書メモ】『職業としての小説家』 村上春樹

 

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

 

村上春樹が小説や小説家に対する考え方について綴ったエッセイ。

本書の「あとがき」に書かれているとおり、著者の小説に対する基本的な姿勢や考え方は数十年前から変わっていないため、過去のエッセイを読んだことがある人やファンなら聞いたことのある内容も多いと思う。

逆に、これまで村上春樹のエッセイを読んだことのない人にとっては、村上春樹が小説家になるまでのエピソードや小説に対する考え方の集大成のような本なので、ファンでなくとも一読の価値があると思う。

 

印象に残った箇所を上げると本当にきりがないのだが、強いて挙げるなら「時間を味方につけるーー長編小説を書くこと」という章がよかった。
 
この章では、村上春樹が長編小説を書くためにしている具体的な作業や習慣について書かれている。

  • 毎日必ず原稿用紙十枚分を書く。
  • 書き上げてから、初めて人に見せるまでに三回は全体を書き直す。それぞれの書き直しの間にも一週間なり一か月の時間を置くことで、細部までバランスのとれたものになる。
  • 妻に読んで批評してもらう。批判された部分は必ず書き直す。批判を素直に受け入れられるかどうかは別として、書き直すとほとんどの場合は改良される。
  • 編集者に読んでもらい、数えきれないくらい書き直す。
こんな風に地道な作業と時間をかけ(時間を味方につけて)書き上げた作品だから、作品を誰かに批判されても自信をなくすことはない、と著者は言う。
 
また、優れた小説は、他とは違うという「実感」を読み手に与えるものであり、その「実感」を何より大事にしている、ということが書かれている。その「実感」は言葉にすることは難しいが、「温泉の湯」と「家風呂のお湯」の違いに例えられており、絶妙な例えだと思った。
 


私のような凡人は「優れた小説」と聞くと、「天才的な才能のある人が、大した苦労もなく自由気ままに書いている」といったことをイメージしてしまう。しかし、村上春樹ほどの作家でさえこれだけ地道な作業をしていること、そして「小説を書くための一連の作業を自分なりのシステムとして整備する」ことをとても大事にしているのが印象的だった。
 
日々の仕事だったりブログを書くなり何でもそうだが、アウトプットの価値を高めるためには、時間と手間をかけて地道に磨き上げる作業が必要不可欠だ。

そして、その具体的な方法は万人にとってベストなものはない。村上春樹が長年かけて作り上げたように、自分なりの作業やシステムもまた、時間をかけて獲得していくしかないのだと感じた。